ながーいながーいPRIDE武士道ウェルター級GP決勝ラウンド

●第1試合 ★★
ゲガール・ムサシ vs ヘクター・ロンバート×(2R 判定)
面白くも何ともない試合でした。ポジションで上回るムサシも結局バックマウントから出来ることがほとんどなく、柔道家ロンバートはグランドで主導権を握れないまま、両者スタミナ切れのグダグダ判定。両者とも武士道では新顔なので、これにニンジャかバローニを絡ませればもっと盛り上がったと思いますし、勝者の価値も上がると思うんですが。

●第2試合 ★★★★
パウロ・フィリオ vs 三崎和雄×(1R 腕ひしぎ十字固め)
固めるだけでなくこの極めの強さがある限り、フィリオウェルター級最強幻想は来年以降も続くでしょう。ちょっと手が付けられない感じですね。フィリオに勝てる選手となるとフィジカル面で負けてないヘクター・ロンバート辺りになるんですかね?

●第3試合 ★★★★
デニス・カーン vs 郷野聡寛×(2R 判定)
まず郷野の入場は素晴らしかったですね。前回は「ちょっと……」という感じでしたが、まさかフルセットのDJ OZMAが登場するとは思いませんでした。ただ先に入場したカーンを待たせるのは問題アリです。カーンの入場を後にするべきだったでしょう。試合の方は郷野がカーンの勢いをいなしながら戦ったこともあって派手な試合にはなりませんでしたが、グランプリの準決勝ということもあって緊張感のある攻防になったと思います。一進一退という感じではなかったのが残念ですが。

●第4試合 ★★
ムリーロ・ブスタマンチ vs ユン・ドンシク×(2R 判定)
極めきれないブス先生が衰えたのか、それでも極めさせないユン様が凄いのか、負けが続いている両者だけに観ている方には分かりづらい攻防でしたが、双方の持ち味が出ているようであまり出ていない微妙な試合でした。ユン様は一度練習環境を変えてみてはどうでしょうか?

●第5試合 ★
ルイス・ブスカペ vs 帯谷信弘×(2R 判定)
前回ボロクソに負けた帯谷が次の大会ですぐ出てくるのが全くもって意味不明です。しかし帯谷はDEEPで観ていると良い選手なんですが、やはり武士道では一枚以上格下ですね。寝技でも打撃でもブスカペに上回られ、タフさだけでKOされないというのは情けない限り。本人もそのことに気付いているようで、試合後のインタビューでも練習環境を変えるなどの軌道修正を示唆しています。フィジカル面では外国勢に引けをとらなそうな数少ない日本人だけに頑張ってほしいんですが(ライト級の藤田和之みたいなもんですかね)。

●第6試合 ★★★★
○ジョー・ピアソン vs 前田吉朗×(1R フロントチョーク)

今はとても興奮してるよ。PRIDEというのはどの選手も待ち望む舞台なので、ここまで来れて非常に嬉しく思うよ。PRIDEは一番好きな大会で、全部の大会DVDを持っているんだ。PRIDE.1からPRIDE.25までは全部ビデオで、その後は全部DVDで持っている。もちろん、自分の出るPRIDEのDVDも買うつもりだ(笑)。本当に夢が叶った!印象に残った試合は桜庭VSクイントンだったり、コールマンVSヒョードルだね。僕がPRIDEクイズ大会に出たら、いい結果が残せると思うよ(笑)。
http://www.prideofficial.com/free/news/details.php?id=1162463643

上の点数はすべてピアソンに捧げるものです。ハードコアPRIDEオタク(日本でもPRIDE全興行のDVDを揃えている人はあまりいないでしょう)がついに念願の舞台で念願の一勝を挙げた時、ボロボロと泣き崩れるピアソン最高でした。もちろんフェザー級が新設されるなどのことがない限りもう呼ばれることはないと思いますが、それでもピアソンが老後にPRIDEに出て一勝を挙げたことを誇れるでしょうね。おめでとうございました。

●第7試合 ★
菊田早苗 vs ジョン・フランソワ・レノグ×(2R 判定)
カード決定時に散々「菊田が地獄の減量で83kgまで落とさなければならない!」と煽っておいて、当日はあっさりと85kgオーバー。それでもバテバテでポジションだけはきっちり取りにくるので、そりゃ判定は菊田になりますわね。この試合中トイレは大混雑でした。
しかしレノグ、入場時には酔っ払った黒人が紛れ込んだのかと思うほど全開の普段着でビックリしました。

●第8試合 ★
美濃輪育久 vs マイク・バートン×(2R 判定)
美濃輪のモンスタークエスト路線もいよいよ限界なんではないでしょうか。主催者側の思惑としてはすっきり脚関で秒殺という感じなんでしょうが、レスリングのベースもある巨漢のバートンではそれも通用せず、ただバートンもスタミナ切れで最後まで美濃輪を圧倒出来ないグダグダな展開。少なくとも最初のギルバート・アイブル戦の時は百戦錬磨のアイブルに2階級下の美濃輪が挑む牛若丸的な構図で、しかもアイブル絶対有利という状況を覆して秒殺したからこそあれだけの大爆発を起こしたはず。その後は「美濃輪でも勝てる巨漢外人」とのマッチメイクを重ねるのみで、そこに勝負論は見えてきませんでした。しかし今回、計らずも「総合素人の巨漢でもパンチが当たれば大ダメージになる」という当たり前の事実を観客も突きつけられた感じでした。このようなマッチメイクは下手すると生命の危機に直結しかねません。美濃輪自身も勝負論のある世界に戻る次期に来たんではないでしょうか。
ちなみに煽りVで美濃輪が母校で講演した際に「君たちは今実際に中学生だからリアル中学生」と「リアル○○○」の意味合いを説くシーンがありましたが、その論点で言うとバートンが

彼がリアルプロレスラーと名乗っているのはどうかと思う。ヤツはプロレスの試合をやってないだろう。やってないのにプロレスラーを名乗るのはおかしいと思うぜ。
http://www.prideofficial.com/free/news/details.php?id=1162464127

というのはまことに正論ですね。

●第9試合 ★★
石田光洋 vs デビッド・ベルクヘーデン×(2R 判定)
常に全力投球の石田は良くも悪くも判定勝利がよく似合いますね。本人はタイトルマッチに意欲的になってきていますが、ここ2戦の内容では挑戦者としての圧倒的な存在感がまだ稀薄で、来年ライト級のグランプリが開催されるとなると無理をしてタイトルマッチを組む必然性も感じられません。ただし2階級上のベルクヘーデンを完封したことはもの凄く大きく評価して良いんじゃないかと思います。ここはひとつ武士道でのキャリアのある選手との試合で実力査定をしてほしいですね。

●第10試合 ★★★★
青木真也 vs クレイ・フレンチ×(1R 三角締め
金魚にはキチッと勝つ。簡単なようでなかなか出来ることではありません。僕は青木の試合は好きなんですが、格下の対戦相手への敬意が稀薄なのが引っ掛かるんですよね……。でもギルバート・メレンデスには勝ってほしいし……。

●第11試合 ★★
五味隆典 vs マーカス・アウレリオ×(2R 判定)
五味の積極性の無さとカウンター狙いのアウレリオ。まあ良いとこドローだと思いますが、ドローなら王者が王座防衛で文句ないと思います。そこら中で語られている通り、アウレリオはアウェーで戦う挑戦者として、誰が見ても納得のいく試合をしなければ王座は手に入らないのを理解すべきでしょう(しているとは思いますが)。しかし五味は去年の神がかった強さは鳴りを潜めてますね。

●第12試合 ★★★
三崎和雄 vs デニス・カーン×(2R 判定)
フィリオは不運なのか何なのか、前回のミドル級GPラストワントーナメントの時と同じく、休憩時のドクターチェックはOKで試合直前のドクターチェックでNGというデジャブのような形でフェイドアウト。代わって出場する三崎(本来ならムサシじゃないんですかね?)は「決勝直前まで試合があるというのを聞いていなかったので弁当食べたり、ジュースガバガバ飲んだりリラックスしてましたね。試合のモードではなかったです。」というのは眉唾としてもこれまで以上にアグレッシブな良い試合をしたと思います。対したカーンの試合終了後のインタビューは、それまで傲岸不遜と思っていたカーンの印象を180度変えるものでした。

――準優勝に終りましたが?
試合が終わったときに、チャンピオンとしてベルトを巻きたかったが、試合には満足しています。自分の110%の力を出しましたし、ベストを尽くせました。
――決勝の相手がパウロではなく三崎選手になりましたが?
対戦相手が三崎になったのはある意味よかった。というのは、パウロは友達で、決勝で顔を合わせるのは不思議なかんじだったから。
――三崎選手との試合前にダメージはあったのですか?
郷野との試合で二頭筋と肩を痛めてしまっていて、決勝で右腕に力が入らなくなってしまった。ただ、それも含めて全部自分の責任。言い訳にはしたくない。
――三崎選手は「これは郷野との勝利」と言っていたがどう思いますか?
少しは影響した。三崎は私を負かした。三崎には真っ向から闘って負けた。その意見は面白とは思うが、私がパンチを出して怪我をしただけだ。
――今後の目標は何ですか?
休養をとって怪我を直すこと。三崎との再戦も考えている。そして来年GPで優勝する。これで私と会うのは最後ではない。
http://www.prideofficial.com/free/news/details.php?id=1162711393

自分の負けた要因を他者になすりつけようとする外国人選手が多い中で、メンタル面でもハンディを背負っていただけにこれはとても立派なコメントだと思います。改めてカーン選手のファンになりました。また捲土重来を期待します。
しかし三崎のPRIDEでの戦績を振り返ってみると

○ジョルジ・パチーユ・マカコ(2R 判定
×ダニエル・アカーシオ(2R 判定
×ダン・ヘンダーソン(2R 判定
フィル・バローニ(2R 判定
ダン・ヘンダーソン(2R 判定
×パウロ・フィリオ(1R 腕ひしぎ十字固め)
デニス・カーン(2R 判定
http://www.prideofficial.com/free/fighters/details/1092240460.html

こんな戦績の選手がチャンピョンで良いんですかね?もちろんK-1の武蔵もそうですが、日本人がフィジカルで劣る外国人選手と戦うための戦法としてポイントで勝つというのは理解できますが、果たしてそれは「最強」なのかという疑問は残り続けると思います。

●大会総評 ★★
長い。本当に長すぎます。僕のようなド田舎から観戦に出てきた人間は新幹線の時間の関係で21時頃がタイムリミットでしょう。都内在住の人でも翌日の仕事や終電を考えれば22時ってもんじゃないですかね?今回はどういった理由でスタートが16時(しかもパンクラチオンの実演などで10分くらい押しました)になったのか理解不可能です。結局僕は家に帰るのを諦めてツレの家に泊まることにしたんですが、それでも終電に間に合いそうもなくなり、三崎対カーンの判定結果を聞くやいなや会場を脱兎のごとく後にしました(僕と同時に新横浜駅へ全力疾走する人が他にも数百人いました)。PRIDEの基本は日曜日興行である以上、DSEは観客のことを第一に考えたスタート時間、時間配分、試合数を適切に考えてほしいです。今回で言えばブスタマンチ対ユン、ブスカペ対帯谷、ピアソン対前田、菊田対レノグは間違いなく不必要なカードでした。特にウェルター級GPのクライマックス興行にウェルター級のワンマッチは要りません。ライト級のワンマッチもライト級の序列を決める戦いであるべきでしょう(とは言っても来年ライト級GPを開催するならそれも不要だと思います)。榊原信行社長も

内容がよければ長くても皆さんスカッとしていられたと思うんですが、プロモーターとして今後を考えるいいきっかけになりました。12試合は多すぎました。長すぎるのはいくらいいものを作っても熱を下げますし、お客さんの集中力も下げます。今日のことは選手には責任がありません。プロモーターとして反省したいと思います。
http://www.prideofficial.com/free/news/details.php?id=1162711456

と珍しく殊勝に反省しているので今後はもう少しコンパクトな興行になってくると思います。
しかし会場演出という面で考えると、これまでの武士道シリーズとは1枚も2枚もグレードアップしていました。下手したらナンバーシリーズ以上のモノになっていたと思います。特に佐藤大輔氏の煽りVは秀逸。前回の無差別級GP決勝ラウンドで「まあそれでも良くなってきてるな」なんて思っていましたが、やはりレベルが違いました。個人的にはヒョードル対ミルコの煽りV以降、佐藤氏の煽りVは過去の自分の作品のセルフカバー的なマンネリズムに陥っているなと思っていたのが、この約半年の充電期間と言うか煽りVが作れない期間を経て、かつてのクオリティ以上の物になっていると感じました。特に五味対アウレリオのタイトルマッチの煽りVは完璧。鳥肌が立つほどエモーショナルな作り、そして抜群の選曲。立木文彦氏のナレーションも(ちょっとやり過ぎでしたが)素晴らしかったです。


そういや会場でテレ朝でやっていた番組のDVD発売関連のCMをやっていましたね。何だか意味深だなぁ……。