為にする者

「格闘技は危険で野蛮だからこの世から無くすべき」という意見があります。「あんな野蛮な行為をテレビのゴールデンタイムで放送して、子供が真似したらどうすんの」という意見もよく聞きます。
という訳でこんな事件が起きました。

妻に死のアームロック
格闘技好きの夫が妻に関節技をかけ骨折させ、その後、病院に行かせず放置し死なせたとして、逮捕されていたことが19日、分かった。
 傷害致死容疑で逮捕された男は、川崎市中原区の無職・村高元太容疑者(24)。中原署の調べによると、村高容疑者は6日午後3時ごろ、自宅で22歳の妻の左腕を後方にねじって締め上げる「アームロック」をかけ、骨を折って左肩周辺の筋肉を痛め、11日後の17日午後4時ごろ、化膿した傷から細菌が血管に入ってしまう敗血症でショック死させた疑い。
 妻は痛みを訴えたが、病院には行かず、薬局で買った湿布薬を張るなどして、自宅で寝たきりの状態に。17日午後7時30分ごろ、帰宅した村高容疑者が、妻の異変に気付き、119番通報した。
 2人と同居していた村高容疑者の父親は「医者に診せよう」とすすめたというが、村高容疑者は「大丈夫だ」と言い張って取り合わず、放置していたという。父親によると、「(村高容疑者は)K―1やPRIDEなど格闘技が好きで、家庭内でもよく、技をまねして暴力を振るうことがあった」という。調べに対し、村高容疑者は「注意を聞かなかったので腹が立ち、けんかになった。死ぬとは思わなかった」と供述。同署は保護責任者遺棄致死の疑いでも調べる方針だ。
http://www.yomiuri.co.jp/hochi/news/feb/o20060219_20.htm

アンチ格闘技派(なんてのがあるのかどうか知りませんが)は、「それみたことか。テレビであんな野蛮なモノを放映しているせいだ」と活気づいていることでしょう。
こういったことは何も格闘技に限りません。例えばトレンチコートマフィアによるコロンバイン高校での銃乱射事件(http://ja.wikipedia.org/wiki/コロンバイン高校銃乱射事件)の際に、同じように管理社会に反発する黒装束の男女が暴れまくる『マトリックス』がやり玉にあげられました。ロック好きの少年が自殺したのはヘヴィメタルバンドのジューダス・プリーストの曲が入ったレコードを逆回転させると「Do it!」という自殺教唆のメッセージが聞こえたせいだとして裁判に訴えた事件もありました(http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/5855/hrhm3.htm)。こうした事件が起きると、必ずそのジャンルのアンチたちはそのジャンル壊滅を狙い、そういったジャンルがいかに社会に悪影響を与えるかをアピールしたがります。
しかしケネディ大統領を暗殺したジョン・ヒンクリーやジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマンが『ライ麦畑でつかまえて』を愛読していたからといってサリンジャーの名作を発禁にせよという声はあがらないし、聖書を愛読していたシリアルキラーは沢山いても「聖書を焚書せよ」との声もあがりません。野球ファンの中年がバットを振り回して通り魔となっても「野球のテレビ中継をやめろ」とはならないでしょうし、サッカー好きの少年が子供を蹴り殺してもサッカー嫌いの人から「サッカーを廃止すべし」との声はあがらないでしょう。
これは何故なのか、僕の中で明確な答えは出ていないのですが、このように安易な犯人捜しによって特定のジャンルを壊滅させることはあってはならないと思うのです。
だからこそ日本における格闘技というジャンルそのものを引っ張る山本KIDのような有名選手には(必要以上に高潔な人物たれとまでは思いませんが)、より大きな自制心と自覚が必要になってくると考えます。